2023年1月24日火曜日

山田風太郎の5冊 その2 幻燈辻馬車

38段目8番

映画監督相米慎二


が、アルバイト先渋谷道玄坂の <ちっちゃな赤鬼>に何回か出入りした

連れてきたのは同じ映画監督の細野辰興

当時はまだ相米の下、下働きに終始していた

細野さんは横浜放送映画専門学院の同級生だ

服をもらったりバイト先を紹介されたり、いろいろと世話になった

その細野さんが「監督に頼まれちゃったよ」と<日光下駄>を一足注文した

<日光下駄>は、ぼく愛用の下駄だ

学校へ下駄で通うことはなかったが、休みとなれば、宇都宮へ映画を見に行く時だってバッチリ下駄でキメた

30過ぎまで下駄を手放すことはなかった

細野さんが監督になったと風の便りに聞いた

そうこうしているうちに双葉十三郎が、彼の<シャブ極道>を邦画のベストテンに選出した

双葉十三郎といえば知る人ぞ知る映画評論家だ

嫉妬せざるを得なかった

また意外でもあった

細野さんが頭角を表すなら、プロデュース的な仕事だろうと思い込んでいたから

<シャブ極道>は確かにいい映画だった 役所広司はこれで一皮むけた

相米慎二が<日光下駄>を所望したのではなく、謂わば細野さんの点数稼ぎだったと睨んでいる

ぼくの夢は映画だったが(かすり)もせず67になり、あとは死ぬのを待つだけになった

相米は早死したが細野さんは監督になってから、それなりの映画を作り、今も歩みを止めない

それは細野さんの力だが、彼の小指の先くらいなら、日光下駄が一足噛んでいるのではないか!


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