2023年2月2日木曜日

山田風太郎の5冊 その3 誰も知らない殺人

 38段目9番

長い夢


を見た

普段は夏にしろ冬にしろ床についてる間は1時間置きにトイレに立つ 

酔い痴れ、疲れていたのだろう、長い3時間半にも渡る夢を見たのは初めてだ

どんな夢にしろ(ほん)の一瞬に過ぎないと言われ続けてきた 

けれど、長い夢を実際に体験してしまった以上

(ほん)の一瞬を信じるわけにはいかない


ただいくら長くたって夢は夢だから、理路整然としていない 霞がかかったように曖昧だ

おぼろな記憶をぽつぽつ拾い集めてみると、どうやら夢の記録を前々から採っていたらしい

となると1人の、たぶん男が、最重要人物になってくる

大学ノートに頻繁に登場する男の名前は、はっきりと記したはず

そいつの名前をどうしても思い出せない

夢日記をつけたのは数回だが、男に付随する何人かをも、書き留めた

そいつらも闇の底だ


目覚めて、夢の記憶を記録した事実などまったくなく、大学ノートなぞどこを探したって出てきやしない それでと認識した

最重要人物の名を掘り起こせないのが許せなく、つい酒に走ってしまった

晩年ともなれば夢の見方が、若い頃と若干異なるようだ



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