2021年9月11日土曜日

田中小実昌の5冊 その4 ダンブバンプ

 29段目2番

主婦の館


にトンデモナイ女がやって来た

なにしろ若い 本人は20と言っているがどう見ても17、8だ そしてかわいい

従業員の平均年齢を一気に引き下げてしまった 通いなのか住み込みなのかは分からない

浮き上がってるふうでなく、他の女たちと普通に話している


阿美が中国に帰って、数年後のことだ

最近はここに来ても、女とヤルことはない

鬱屈がたまるとビールを飲みカラオケでLOSOやカムピーをガナルのだ

女もわきまえていて俺が席に着くと、ビールより先にカラオケメニューを持ってくる


が、彼女を見てしまった

早速インタニンホテルへと連れ出した

前回同様、今回も女にいくらかかったかは書かない 正確に覚えていないのに、覚えてるふりは罪なのではないか

インタニンはコーヒーショップ街と隣り合わせている 

歩いても最短距離の置屋まで3分とかからない

横並びのBRホテルはチェンマイで、多分一番安いホテルだ

チェンマイからバスで3時間の、パヤオで半年暮らしたことがある

チェンマイのマラソンレースに出場する時は、そこを定宿にしていた


インタニンは中級ホテルだ 宿泊はBRホテルの5倍くらいだろうか?

彼女の名前は憶えていない 聞かなかったかもしれない

「私はタイヤイよ」

と聞きもしないのに言ったからタイヤイ子にしよう あんまりだから八重子はどうだろう?

チェックインし部屋へ向かう途中の踊り場で、八重子は言うのだった

「忙しくて忙しくて、おまんこが真っ赤にただれて、ヒリヒリしてるの 限界だから帰る ごめんなさい」

部屋に入ることなくスタコラサッサと去ってしまった


タイヤイというのは、ミャンマーのシャン州に多くが住むタイ族だ 

ヤイใหญ่は大きいの意味だから大タイ族となる それに対しタイに住むタイ人を小タイ族と呼ぶ 

その違いがどこにあるのかはさておき、隣県のメーホーソーンにもタイヤイが固まって暮らす地域がある

八重子がどこで生まれたのかは知らない 

聞く機会がなかった


次の折バカにされないようビールは飲まずに出かけた

主婦の館でも1本で抑えておいた

交渉成立し、ぼくらはトゥクトゥク(三輪タクシー)に乗った

運転手は、おばさんだった

目指すはチェンマイ門を出て300m先にあるチェンマイゲートホテル 八重子のリクエストだ

ぼくは酔わないと舌が滑らかにならないタイプなので「ビールを買おう」と止めてもらった


そしたらおばさんが「あんたが買ってきてあげなさいよ」と強引に八重子を行かせた

お金を出したのはむろんぼくだ

おばさんが、まくし立てた

「あなたいったいあの子をいくつだと思ってるの、16、下手したら15よ、ヤッちゃだめよ、私には何の力もないけど、そう祈ってるわ」

八重子がビール3本を携え戻って来た

5本は買うつもりだったが、おばさんに「何本にするの」とせっつかれ、つい「3本」と答えてしまったのだ

八重子とおばさんが、何やら早口でやり出した ほとんど聞き取れない

チェンマイゲートホテルも中級ホテルに分類されるが、インタニンホテルより高かった気がする


部屋に入ると八重子は携帯を取り出し、誰かと喋った

そして言った 「従兄が来るって」 

2分もしないうちに従兄が現れた 歳は八重子と同じくらいだろう とにかくあっけらかんとしている 

前に<ドムリー>という詩を書いたが、雰囲気はドムリーを思わせる

ビールで乾杯を済ませると、二人は二人だけで駄弁りだした

八重子がまた言うのだった

「従兄がこれから用だって 私も行かなくちゃ いいよネ?」

「ああ」と答えざるを得なかった

タイ語ではなく、日本語の「嗚呼」

「このビール持ってていい?」 「ああ」


二人は、残ったビール2本をそれぞれに手にし仲良く出て行った

インタニンホテルの時のようにマッサージ師を呼ぶ元気はなかった

外に出て、飲み、荒れた

その後も同じペースで主婦の館に顔を出したが、八重子がいたことはない

(やめた)ってことだろう



関連詩 ドムリー 


 


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