28段目1番
賢兄愚弟
とは、よく言ったもので、うちは9歳違いだがその典型だ
ぼくも勉強はできたが中学2年の秋に円形脱毛症を発見したら成績なんぞはどうでもよくなってしまった
女には何事にもおくてで、この歳まで一人身だ
兄は積極果敢だった
高校時代、図書室の司書とつき合いアサイさんを我が家へ連れてきた
その日の夕食はカレー カレーだと何故か興奮してしまう
スプーンに載せたカレーと御飯を口に持っていく途中、掘り炬燵上のテーブルに、こぼしてしまった
これとよく似たことがあった クサカリは成蹊大学に入学した
大塚の癌センターの裏手のアパートに、お姉さんとお兄さんがそれぞれ部屋を借りており、お兄さんと一緒に住むこととなった
お姉さんのテイコさんの部屋で、カレーをご馳走になったことがある やはりこぼしてしまった
クサカリのお母さんの葬式で、何十年かぶりにテイコさんを見た 白髪頭だった
ぼくが分かったらしく近づいてきて「時々顔を出してやってください」と言った
マサジにはお姉さんが2人か3人いた 年齢が近いナホコさんを慕っていた
高校の時、同人誌を4号まで出したことは、何度か言った
そのことでマサジと仲違いをした
昔のマサジはひねくれるのが得意だった
和泉にあるマサジの家を目指し、歩いていた 仲直りはまだだったので緊張していた
チャイムを押す 出てきたのはナホコさんだった「なかなかの男前じゃない」
と、ナホコさんは言ったのだ、と随分と後になってマサジから聞いた
その時のナホコさんの服装を一挙一動をいまだに覚えている
話がずれてしまったので戻す
拳骨をもらったことは2度あるものの、おやじは別に厳しくはなかった
だが、上の姉に言わせると兄に対しては、特に勉強のこととなると生半可ではなかったらしい
ぼくはずうっとフラフラ生きてきた
兄は県庁に勤め結婚し子供を儲けた
大人になると、おやじには反発だけを覚えた
兄はもっともっと複雑だっただろう
おふくろの葬式の後、3人で話していた
おやじが言ったセリフに対し「ウソつけ!」と面前で切り返した
すかさず兄が「言葉遣いには気をつけろヨ」と口調強く諭した
兄は膵臓癌になり「あと1年」と医者から宣告された
兄は蓬田家の墓を新しくすることにした
そのことでおやじに「ああしてこうして」と説明していた
その場には、ぼくの他に、義姉も上の姉もいた
おやじが例の調子で兄の話をさえぎり
「この前死んだマル田バツ蔵には、3万円貸したままなのだ」と、ぐだぐだ愚痴りはじめた
兄はテーブルを平手で叩きつけ「人の話は聞くんだよ!」と怒鳴った
一瞬だけだったが、おやじが(しゅん)となった
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