2021年7月1日木曜日

古内一絵の3冊 その1 マカン・マラン

 22段目10番

愛の奇跡を



市営清原住宅に入居して3年目に入った
6畳にも4畳半にも3畳にも照明器具がない
ただトイレと風呂場スペースと流しの上には、前の人が残して行った、小さな蛍光灯が取り付けてある

1年もしないうちに、流しの蛍光灯のヒモが、ちょん切れてしまった
ヒモの根元部分を探るべく、子指先大の穴から、焼き鳥の串の先っぽを折ったヤツを、挿入した 徒労に終わった
「もう取り外すしかない」と、その作業にかかった
上方に設えてある食器棚に強烈に接着しており、ネジ5本を抜き取ったところで、すべてをあきらめた

残りの明かりは便所とシャワー室だけなので、暗くなれば図書館から借りてきた本は読めなくなる
それからはDVDとCDの時間だが、映画は全部見てしまった
拓郎と清志郎は聞き飽きてしまった

<サウンド・オブ・ミュージック>は10回近く借りたはずだ
そこできょうは<アニメ世界名作劇場>に食指を伸ばした
ジブリものも何本かあったが宮崎駿はキライだ
青春の渦中に<となりのトトロ>を見た
己の感受性が試されているようで後味頗る悪かった

CDは<デュエット大ヒットのすべて>という2枚組を借りた
28曲入りだ ヒデとロザンナの<愛の奇跡>と<愛は傷つきやすく>が圧巻だった
二人はぼくのあずかり知らぬところでデビューし、「あっ」という間に夫婦になり、「あっ」という間もなくヒデは死んだ

その後のロザンナは、ヒデへの愛を売り物にしている気がして、好感持てなかった
ただいま現在、どこでどうしているかは知らない
昔から、ぼくは無神論者だった
それなのに<奇跡>を信じられるようになってしまった
コロナ禍の空の下、食傷気味の俺たちに、<愛の奇跡>はオススメだ




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