18段目3番
例によって泥酔
し、気がつくと飛行機のシートにうずまっていた
と、向こうから真っすぐに、満面の笑みで女の乗務員が近づいてきて「プリーズ」
と、なんだか見覚えあるような、身に覚えもありそうな半バッシュッを差し出したのだ
「なぜ彼女が俺の靴を?」
と足元を見ると裸足だった
この時以外にも搭乗手続きの前に泥酔し、所帯道具を詰め込んだスーツケースと背負いバッグの在り処を忘れ、っていうか存在を失念し、まったくの手ぶらで機内に乗り込んでしまったことが二度ある
雲の上ではビール片手にその身軽さを謳歌する
地上に降りれば(毛抜き)や(洗濯バサミ)や(果物ナイフ)を、新たに買わねばならぬことに思いがいたり、泥酔するしか能のない<我が身>を嘆くのだった
かように泥酔によって失われたものは計り知れない
得たものもある
自己愛で凝り固まった自分を少し客観視できるようになった
「俺は俺たちなのだった
俺たちは量子よりもさらに何億倍も小さい、はるかなるモノの集合体だ
ひとりきりの他人も、ひとりきりの自分も、俺たちだ
俺たちは俺を、ぼくはぼくたちを
殺してはならない 守ってはならない」
とろける
九月になったら一杯飲もうと思っていた
<九月になれば>というハリウッド映画に主演したロック・ハドソンは、ホモと知っても好きな俳優の一人だ
#九月になったのに、いいことなんてありゃしない#
というのはRCサクセションの歌だ
八月十二日から一滴のアルコールも体内に取込んでいない
八月十一日で八月分の予算を使い切ってしまったからだ
九月分を前倒しして、八月二十日に、あるいは八月三十一日に飲んでもよかったわけだ
「このへん意思がツヲイのだなあ」
もうじき六十の弟に「タイに行ってくる」というと餞別を包んでくれる心やさしい姉が言うには、アル中というのは毎日飲まずにはおれない状態を指すだけではなく、飲み出したら最後歯止めが効かなくなるのも立派なアル中なんだそうだ
そして「お前の脳の何割かはすでにとろけてしまった」と
酔っ払い、意識がトンデル隙間にすべって転んで頭を強打し、本当に気を失い、七十二時間後に気がつくと、そこは病室だった
という男がいるのだが、その男に電話をかけそこで話したことを、この詩のテーマにしようと考えていた
一時間前に四分二十三秒の通話をしたのは確かだが、何を喋ったのかマッタク覚えていない
「そのまま気がつかなかったら理想的な死に方だったのに」とつくづくと思う
そのことを言ったかどうか?
いずれにせよ大した事ではない
この世にも、あの世にも、その世にもとろけきるほどの大事などありはしない
この詩はコレでおしまいだ
「ぼかあ、これからカラオケへ行く」
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