2021年6月2日水曜日

ボブ・ディランの5曲 その1 いつもの朝に

 18段目2番

バンビちゃん


アド通信社はサラ金の広告を取り、スポーツニッポン紙に掲載するのを生業としている
多分21か2の頃、目黒本町のアパートに住んでいた時期、2週間程度働いたことがある

あるのだが、それがどこいらヘンにあったのか覚えていない
だから当然、最寄りの駅も忘れてしまった
入社して3日目か4日目には、回りからバンビちゃんと呼ばれるようになった

毎朝つぶらなお目めを赤くして出勤するから、そして普段はおとなしく従順だからだ
毎日飲んでも白目が充血しない人だっている
「ぼかあ天性の慢性結膜炎なんです」とか何とか、当時はよく言った

社員旅行は石和温泉だった
行きの電車で飲み始めてから40分で、「よし!飲みに飲みまくってこれを最後に辞めてやる」
と固く心に決めるのだった
「先日は醜態を見せてしまい弁解の仕様もありません とてもこのまま居続ける勇気はありません どうぞ退職させてください」
という手紙の文面を帰りの電車では推敲していた

所構わず、相手構わず、喋りまくったのは確かだ
記憶も10ブロックはトンでいる
けれどさほどの醜態は晒していないはず
そして推敲通りの手紙を出した

2週間分の給料がどうなったかはすっかり忘れた
バンビちゃんの、温泉場での思考振舞は今も手に取るようにわかる
バンビちゃんはぼくだ
おれがバンビ

追記 気になったので調べてみたらバンビは仔鹿のことなんですね。 でも「バンビちゃん」とぼくを初めて呼んだその人は「蓬田君はいつも赤い目でウサギのようだね」と言ったのです。






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