18段目2番
バンビちゃん
アド通信社はサラ金の広告を取り、スポーツニッポン紙に掲載するのを生業としている
多分21か2の頃、目黒本町のアパートに住んでいた時期、2週間程度働いたことがある
あるのだが、それがどこいらヘンにあったのか覚えていない
だから当然、最寄りの駅も忘れてしまった
入社して3日目か4日目には、回りからバンビちゃんと呼ばれるようになった
毎朝つぶらなお目めを赤くして出勤するから、そして普段はおとなしく従順だからだ
毎日飲んでも白目が充血しない人だっている
「ぼかあ天性の慢性結膜炎なんです」とか何とか、当時はよく言った
社員旅行は石和温泉だった
行きの電車で飲み始めてから40分で、「よし!飲みに飲みまくってこれを最後に辞めてやる」
と固く心に決めるのだった
「先日は醜態を見せてしまい弁解の仕様もありません とてもこのまま居続ける勇気はありません どうぞ退職させてください」
という手紙の文面を帰りの電車では推敲していた
所構わず、相手構わず、喋りまくったのは確かだ
記憶も10ブロックはトンでいる
けれどさほどの醜態は晒していないはず
そして推敲通りの手紙を出した
2週間分の給料がどうなったかはすっかり忘れた
バンビちゃんの、温泉場での思考振舞は今も手に取るようにわかる
バンビちゃんはぼくだ
おれがバンビだ
追記 気になったので調べてみたらバンビは仔鹿のことなんですね。 でも「バンビちゃん」とぼくを初めて呼んだその人は「蓬田君はいつも赤い目でウサギのようだね」と言ったのです。
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