20段目6番
ただれる
はじめて肛門の周縁が、つまり尻の穴、ケツメドのグルリがただれたのは、高校を卒業した年の夏、菅平の桑田館で働いていた時だ
どうにも我慢ができず蹴躓くように歩いていたら
「ヨモギタ君、ズボンのお尻が濡れてるわよ」
と誰かに言われた
労働は罪悪だとうそぶいてはいるものの、いざ働き出せば陰日向なく身を粉にして動き回ってしまう
ただれた膿が、パンツ乗り越え、ズボンにまで浸透してきた
ケツメドを自分で覗き込むことはできない
治療を受け持ってくれたのは、高校2年の中里君だった
ラグビー合宿の大学生のお世話
というアルバイトニュースの一文を読んでやって来た
マスターとおかみさんの身内の者も何人かいた
パンツをずりさげ、患部をさらすと、中里君がオキシフルで消毒してくれた
「だいぶ泡立っています」
と、何度も繰り返し
「1勝はします、と約束したのに1回戦で惨敗してしまいました」
との年賀状が届いた 中里君もラグビーをやっていたのだ
次の夏も桑田館に出向いた また、ただれた
中里君は、いなかったが代わりに大学1年生の××君が(名前失念)
オキシフルを塗布してくれた
中里君はマスターの、××君はおかみさんの甥だ
中里君は小太りだが、××君はひょろっとしていた
同じようにひょろ長い、××君の妹も神出鬼没に現れ、働くのだった
昼の休憩時間は、ほとんどの人が昼寝する
××君は仰向けになり、両足を壁に直角にもたせ掛け、寝入ってしまう芸当の持ち主だった
足のだるさが「すっきりしちゃう」のだそうだ
はじめての外国旅行インドから逃げ帰った翌年
(漢字があれば何とかなるんじゃないか)と船で中国に渡った
上海から西安、烏魯木斉と列車で移動
その先、線路はないのでカシュガルへはバスで行った
長距離なのにトイレがない、おんぼろバスだ
日が暮れる前、街に入って一泊する
行きは三泊だったのに、帰りはなぜか二泊だった
カシュガルで、ほぼ10年ぶりに強烈にただれた
バス移動時の宿泊は、一部屋に大人数で詰め込まれる
だが1986年の中国では一人でチェックインする場合、こちらから「ひとりにしてくれ」と申請しない限り相部屋が基本だ
カシュガルでの相方は同じくらいの年齢だった
分単位のスケジュールを組み、あしたからの予定を事細かに語って聞かせてくれた
「ただれの原因は野菜不足にあるんじゃないか?」
と、市場からトマトを買ってきて食べてたら
「それイイね!」
と彼も買ってきて水に浸し、長時間<洗面台>を占領した
ただれは我慢の限界に達していた
こんな男に治療を頼むのは無論のこと、相談するのも片腹痛い
勇気を振り絞り病院の門を潜った
身振り、手振り、そして尻、振って症状を訴える
後ろを向いていたから医師がどんな顔で患部を眺めたかは分からない
処方してくれた軟膏は劇的に効いた
帰国便の出港を待っていた上海のクスリやで、同じパッケージを見つけた時は、うれしさに飛び上がり3ヶ買い占めた
このあと日本とタイとの間を行ったり来たりするようになる
おろしがねは必ずバッグに忍ばせた
トマトだけでは飽き足らず大根おろしに、酢をたらして食するようになったのだ
だから初めての街に着くとまず市場を捜す
大根おろし、さえあれば健康に問題はない
おろせば気持ちが落ち着いた
中国では、まだ国営の食堂の方が多かったけれど、個人経営の店もチラほら目につき出していた
国営食堂でビールを注文すると、ところどころふちの欠けたどんぶり鉢で出てくる
冷えてはいない
烏魯木斉でのことだ
何と客がジョッキでビールを飲んでいる
ビールが本物の生かどうかはともかく、ジョッキにはデポジットが要る
それがとんでもなく高額なのだ
一抹の不安を抱えながらも、例によって杯を重ねてしまった
デポジットは、無事全額戻ってきた
ちなみに、ただれは
用便の後、水洗いするようになって、影も形も消え失せたのでした
持病がインキン
なのでままならない人生を送っている
クスリもいろいろ試したが似たり寄ったり
完治など夢のまた夢だ
といって使わないわけにはいかない
今現在は大村崑でお茶を濁している
陰毛を剃るには時間がかかるし
剃刀の刃をいたずらに痛めるだけだ
ただこまめに刈ってはいる
冬はインキン+乾燥肌でやりきれない
大変なのは夏場だ
夏は汗ばむ
フルチンが理想でも、まっ昼間は窓を全開にしている
全裸というわけにはイカない
部屋は2号棟の2階だが
向かいの3号棟には、おばさんも、おばあさんもいる
暗くなり始めるのを待って、やっとパンツを脱ぎ捨てる
夢を見た
夢は人生以上に、ままならない
醍醐味がありダイナミックともいえる
窓を開け放ち一糸も身にまとってはいない
顔は65の老人そのままなのに
肌は美しく光り輝いて、吸い付くようなもち肌だ
腹は引き締まりヒップラインがおぞましいほど悩ましい
横たわり尻を撫で回しているうちに、おっ起ってしまった
起てばカクのが男の性だ
だが現実は夢精には至らず
勃起した気配さえ、ないのだった
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