2021年3月28日日曜日

角田光代の5冊 その4 坂の途中の家

 16段目2番

バナナの木の下で
 
 
バナナと卵は似ている
小さかった頃は高級品で、まるまる一本まるごと一個、口にできることは、めったになかった
いつの日かきっと、心ゆくまで食ってやるんだと、何度夢想したことだろう
値段もさほど上がっていない
バナナに限っていえば、フルマラソンを走る前とか、走り続けるのを放棄し、給水所で先を急ぐランナー尻目に、西瓜と交互に、頬張るくらいだ

似ていないところもある
別に卵を見て(ほっと)するようなことはない
ところがバナナを目にすると、その色形に(ほっと)一安心というか、心やすらぐ
バナナはバカ正直に正義感あふれている
一月二月を日本で過ごすと、どんなに用心しようが、必ず両耳のヘリが霜焼ける
そんな状況で野たれたくはない
野たれ死ぬならバナナの木の下がいい
「キスより簡単」という詩は実際にバナナの木の下で、つくった

追記、それはパヤオに住むともだちの家の裏手に植わっていた。
今もそこにあるのかどうか?

関連詩 キスより簡単






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