2021年2月3日水曜日

マーロンブランドの5本 その1 乱暴者

 14段目8番

生きいそぎの記
 
 
幼稚園の時はいざ知らず
小学二年の時は早く三年になりたくてしかたがなかった
五年の時は六年生になりたかった

中学一年の時は二年になることだけを夢見た
矢吹丈に入れあげた三年の時は
あすにでも東京に出て、ボクサー修業に身を委ねたかった
反対され高校へ行った
入学したその日から卒業の時を指折り数えた

二十代の時、三十代に憧れるようなことはなかった
ただ、その時の、その仕事を、その日に辞めてしまいたかった
実際、就いた日に辞めた職は三十を下らない
バイトを変えると気分が変わった
仕事を変えただけで満足できない時は、住む場所も変えた

今は最悪なのだ
「何かいいことないか仔猫ちゃん」は、今ではない未来にいるのだ
きょうは辛いことだらけだが
あしたになれば女ができ
あさってには挿入できるかも知れない
そう信じて生きてきた

悪魔か天使が
「お前の三ヶ月を買い上げる」とやってきたら
喜んで売る
買い叩かれなければ二年でも三年でも売る
二十年は無理だ
売った途端にお陀仏では元も子もない

二十代にいつも夢見るナマケモノ」というキャッチフレーズを考え出し、ひとり悦に入っていた

しかし、年取れば、夢を見るのはむずかしい
残り少ない我が人生は、限りなく暗い
生きる上での優先順位は、長い間飲酒がトップだった
それを最近走ることと入れ替えた
この懐具合で毎日飲むのは苦行に近い
飲みたくなると「飲めば気持ちよく走れないぞ」と言い聞かせている

生きいそいだツケが、今頃回ってきたらしい
「辞めたい」とおらんだところで辞める仕事がない
この現状を打開するには
明日を明るい日にするには
宝くじに当たるしかなく、細々と買い続けてはいる
ぼくだってバカじゃない
当たるあたらないは二つに一つとしても
確率に思いを巡らせば、当たらない公算の方が、遥かに高いのは<ガッテン承知のよも助>だ

こうなったら、起きちゃ走り、食っちゃ走り、ひっちゃ走り、昼寝して走り、マスかいて走り、ナイトキャップがわりにも走り、眠れぬ夜を疾走し、となりの町を駆け抜けて、見知らぬ街で失踪するのだ
そして他人の痛みも自分の痛みも分からぬまま
何の脈絡も引っかかりもなく
ケツをまくって死ぬだろう
 



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