2021年1月20日水曜日

池澤夏樹の5冊 その3 カデナ

 14段目5番

風が窓を叩く


音を聞いて
こんな夜中に、訪ねて来る人など、一人もいないし
これは風の音と分かっているのに
「誰かな?」と思ったり

風が窓を叩く音を聞いて
風のつくタイトルの曲を数え上げたり

流しに小便をし、風が窓を叩かなかったら
ちゃんと「共同便所に行ったのに」と言い訳したり

次は「いつ叩くか? いつ叩くか? いつ叩くか?」ひたすら待ったり

風が窓を叩く音を聞いて
こんなふうに、あてどなく思いをめぐらせている人は、世界に何人いるかしら?
「いればいいのに」と独りごちたり

つき合った、たった一人の女に思いを、馳せ
「おお、何と貧しい青春よ」
と、嘆いてみせたり




0 件のコメント:

コメントを投稿