2021年1月13日水曜日

池澤夏樹の5冊 その2 花を運ぶ妹

 14段目4番

文通


初めてのデートの相手はマル田バツ子ではない
文通相手のMさん
高校1年の夏休みだった
「しあわせ」という詩が「小学6年生」の4月号に載った
13人の女と1人の男が「文通しましょう」と言ってきた
その中の4人と文通を始めた
Mさんとだけ1度長い中断はあったものの長く続いた
「そろそろ会いましょうか?」となった

話が少しそれる 
酒乱の浦山桐郎の映画「私が棄てた女」で、主人公と棄てられる女の、そもそものなれそめは確か文通だった

Mさんは千葉県市原市に住んでいた
どのように電車を乗り換えたのかは、忘れた
待ち合わせた駅も覚えていない
「Mさんに手渡そう」と刷ったばかりの詩集を持っていた
何度か述べてきたように高校に入ると詩集を作り始めた
わら半紙にガリ版刷りしたのだが「やぶれた風船」と称する2冊目のやつだ
結局ぎゅうっと丸め、背もたれと座席がくっ付き合う隙間へ強引に捩じ込んだ

なぜ、そんなことをしたのだろう
読んでもらうのがイヤになったのだろうか?
そんなことはない 詩ができれば手紙の最後に添えていた
あまりにもちんけなモノなので、みっともなく感じ出したのだろうか?
でも、そいつを商品として堂々と売っていた

捨てるなら、なぜホームとか車内のゴミ箱に放らずに、あんなところに押し込めたのだろう
今、考えてもさっぱり分からない

文通を始めた頃、Mさんの修学旅行の写真が送られてきた
集合写真だから顔が小さい
自然の摂理として姿かたちに、想像を膨らませることになる
電車からホームに降り立ち、辺りを見回すぼくに、おずおずと近づいてきた女はイメージかけ離れていた

じきに「文通は終わるだろう」と瞬時に予感した
それは相手も同じだっただろう
ナントカ城址公園を歩き、どこかに座った
昼飯は食ったのか、どうか?
どこでどんなふうにバイバイしたのか、キレイに覚えていない

今も昔もファッションに興味を持てない男だが、あん時の服装は、目をつぶっても、くっきりと甦ってくる
我ながら「ダサい」恰好だった

Mさんは、ぼく以上のたくろうファンでもあった
Mさんに会う前は、彼女と連れ立って、たくろうのコンサートを聴きに行くプロセス幾通りも夢想した





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