10段目4番
感謝、感激、雨、霰
と、どこのどいつが言い出したのかは知らない
流石の谷川俊太郎も、あのアラレちゃんも、真っ青なフレーズだろう
この一行は、宇宙誕生以前の混沌を解き放った
三好達治は「雨は簫蕭と降っている」と、宇宙の最果てを描き獲ったみせた
例によって裸足で走っていると、警官に呼び止められた
霧降大橋を渡っていたら、向こうからパトカーがやってきて擦れ違う直前に停車し、中から出てきたおまわりが
「さっき裸足で走ってる男がいて不安だ という通報を受け取ったので確かめに来たのです」
と、因縁をつける
「名前は?」「下の名前は?」「母の名前は?」
と、馬鹿みたいな質問を次々と浴びせてくる
「名前、なまえってしつこいんだよ、ヨモギタだよ、下の名前だと? 秀才の秀に英雄の雄だよ」
パトカーからもう一人見習いみたいのが出てきて、警官との遣り合いをオロオロ見守っている
警官を振り切るべく、我が家へと早足になる
若いのはパトカーに取って返し、バックでついてくる
「ほら、あの青い屋根だよ、目と鼻の距離だよ 署まで歩いて30秒」
「下の名前をちゃんと言えだと? そんなの台帳で調べろよ 俺はシャワーを浴びるんだよ」
と、玄関の戸を開け、中に入る
と、おまわりも乗り込んでくるではないか!
「何だよ 人の家に、勝手に入るなよ!」
押し返すと、騒ぎを聞きつけた姉が奥から現れた
「さっき通報がありまして」
と、警官が繰り返す
「通報した人って男?女? その人名乗りました? あなたが直接受けたのですか?」
俺っちの姉貴はなかなかやるのだ
「いや、わたしじゃないんで、上から至急確認を取れと そ、そしたら、い、いきなりケンカ腰なんですよ」
突如、おまわりがドモリ出す
「聞いてられっか」と中に上がって風呂場に向かう
「ちょっと旦那さん!」
と、おまわりが喚いた
「旦那じゃネエよ!」
俺はブチキレタ
「きょうまで61年と10ヶ月生きてきたが、旦那になったことなど1秒たりともありゃしねえ旦那呼ばわりされる覚えは小指の先ほどもねえんだよ」
シャワーで怒りを醒ます
おまわりは帰ったようだ
「いや、大人げなかった」
ここ4、5ヶ月思うように走れずイライラしていた
公僕たるおまわりの奥歯に、俺の胃袋に、この言葉を噛み締めさせよう
とにかく ダ
感謝、感激、雨、霰なの ダダダダダ
あーめん!
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