10段目6番
川島雄三に捧ぐ
シンプルライフを標榜している、とでも言おうか
有体にいえば倹約生活を余儀なくされてるモノだから
外食はほとんどしない
酒を飲み万能感に満ち溢れても、ヒャッキン寿司がせいぜいだ
とんかつは大好きだが、確か<とんかつ大将>という映画は川島雄三だったと記憶する
けれど二十年来、とんかつ屋とはご無沙汰だ
例によって泥酔し部屋のカギを失くしてしまった
ママチャリのカギはあるのだから
「2つを結わえていた、輪ゴムが切れたのだろう」
と自転車で通ったところをそれこそ舐めるように、捜したが見つからなかった
6月半ばといえどもTシャツ1枚で夜を越すのはキツイ
かましん横の交番へ駆けつけ「朝まで寝かせてくれろ」と掛け合ったが断わられた
ホテル村上は満室だった
仲介してもらった竹美荘は素泊まり5500円だが、現金は3200円しかない
「朝一番で下ろすから」と懇願したが、女将に交渉に応じる気配は微塵もなく、けんモほろろだった
近くの、細長い公園に東屋があったのを思い出し、自転車を走らせたら、転んでしまった
雨が降り出していた
運よく、見ていた人が呼んでくれた救急車で市病院へ運ばれ、右目のふちを2針縫ったが、いつのまにか現れた警官がずっと付き添っていた
さっきの交番のおまわりで、顔つきといい体型といい池田高校の蔦監督にそっくりだ
彼の方が年は10歳下なのだが「蔦さん蔦さん」と懐いでしまい、2人仲良く「ちんたらちっく」に調書を取った
いつしか夜は明けていた
住んでいる市営住宅へ1度戻り、8時半になるのを待って市役所の建設課へママチャリで乗り付け、スペアキーを借りた
で、合鍵を750円で作って市役所へ返した
今市病院の会計課では
「30分以上あっちこっち引っくり返したが、保険証は出てこなかった」
と真実を述べたてた
「紛失届を提出すれば再発行してくれるはずだから、明日中に持ってきて」とのこと
「これにて一件落着」と通りに出ると、目の前がとんかつ屋だった
「ええい、もうついでだ!」と頭でのれんを押し分け、20年ぶりに踏み込んだら
「休憩中だ」と追い出された
仕方なく斜向かいの中華料理店で生ビールと冷奴と馬刺しを注文
「中華屋なのに、馬刺しだなんて乙ですね」
と、アロハシャツのマスターに話しかけながらも、とんかつとその横の千切りキャベツの山盛りが頭から離れない
「ああ、むしゃぶりつきたかった」
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