9段目13番
ぼくの好きな色は
黄色?
面と向かっては「あんちゃん」と呼んでいた兄貴の
好きな色だった
緑?
覚えている一番古いセーターは
緑と白の横縞模様だ
緑というより竹色か
「よっちゃん」が編んでくれたらしい
よっちゃんは「おやじ」の妹だが大嫌いだった
とにかくエバッていた
おやじは誰の意見にも耳を貸さず好き勝手に生きたが
ばあちゃんと借金のあるよっちゃんには
終生頭が上がらなかった
黒?
似合うと自負していた
白よりは黒だ 汚れも目立たない
だからどんなに暑くても学生服は脱がなかった
夏休みの登校日にも学生服を着こんで行った
今思えばそれは
不良と称される奴らが学生服を長くしたり
ズボンを太くしたりするのと同質のものだったようだ
灰色?
マル田バツ子に「好きな色は?」と聞かれた時
「灰色」
と答えた
編んでくれたのは手袋だった
それをどうしてしまったのか?
記憶にない
灰色に指先が茶色だったのか、茶色に指先が灰色だったのか
はっきりと、しない
マル田バツ子は結婚してマル川バツ子になった
クサカリは里帰りしたマル田バツ子を偶然見かけ
「娘さんがマル田さんと瓜二つだった」
と、なんだかうれしそうに言った
もし神様が
もう一度マル田バツ子に会わせてくれるなら
手袋のことを聞いてみたい
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