9段目11番
ナポリタン・グラフィッティ
電動車椅子で週三回透析に通い
ボブ・ディランが来た時は名古屋大阪まで追っかけた
という男と
十年振りに会った
男は、同級生が経営している喫茶店へといざなった
電動車椅子のスピードは時速五キロだそうで
ぼくは少し早足になった
店は開店前だったが女主人は中へ導いてくれた
メニュウを見ると腹が膨れそうなものはカレーとサンドイッチとナポリタンだ
少し迷ってカレーを選んだ
男は一学年下
ちなみに俺たちが高校生だった時分にパスタという単語はなかった
少なくとも日光市にはなかった
「スパゲティー」といった
俺は透かしてスパゲッチと書いたりした
スパゲッチ=ナポリタンだった
ミートソースなんて聞いたこともない
マル田バツ子との初デート
「絵を描きに行こう」と言うと
「じゃあ、スケッチブックは私が持ってく」と言った
大谷川を「あっちそっち」に行った
時々大きな石や堤防の縁に腰掛けて鉛筆を走らせた
お昼になった
神橋手前の物産店が併設する、食堂の細長い席に並んで座り、焼き飯かチャーハンだったかを食べた
二度目は宇都宮へ映画を見に行った
ニュー東宝にかかっていた<フレンジー>と<パリで一緒に>だ
ヒッチコックはまあまあだったがオードリ・ヘプバーンの方はスカスカのカスだった
お昼になり同じビルの軽食喫茶めいた店に押し入り
ナポリタンを注文した
二人はくちびるをギトギトにしてナポリタンを食べた
ギトギトのくちびるで
「一度食べてみたかったの」
と、マル田バツ子は言ったのだ
もしもまた男と会うようなことがあって
男が同級生の店へ案内したなら
「ナポリタン!」と、注文しよう
先日のカレーはなかなか美味だった
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