幻の69シックスナイン
この魔法の靴と出合ったのは、泥酔し警官に追われ結局は逃げ切ったのだが(それが現実のことなのか、幻覚なのか、あるいは夢の一コマにすぎないのか、おそらく一生謎のまま)という情けない状態の翌朝、いや翌昼だ
気がつくとビール腹のオヤジに、おたまの底でほっぺたを突かれていた
「お前のイビキにはまいった 本当なら十時には店を開けるのだ 迷惑料としてポケットから五百バーツ頂戴した これはお情けだ」
と、放り投げられたのがこの靴だ
晩年を走ることに捧げた輩ならわかると思うが、一万メートルの記録を一分縮めるのは並大抵のことではない
ところがこれで走ってみると二分近く縮まった
偶然ではない、翌日元の靴で走ると記録も元に戻った
計り間違いではない
翌々朝、またこいつで走れば同じ結果が出るではないか
早速、二足目を求めて太鼓腹のオヤジを訪ねた
「そいつはとっくの昔に潰れたさあ」
と不敵に笑い、おまけに手鼻をかんだのだ
話はこれで終いだが
この靴の商標は69シックスナインという
<ナイキの靴でかかとを痛め、ミズノで膝をやり、アデイダスで肉離れ>
こいつらは同じ穴のムジナだ、足より靴をいたわって靴より金に寄りすがる
さようなら、ナイキのぼったくりシューズ
69の奇跡を体験してからあと
靴底が減るのが怖くて
履くことはできても、走り出すことができない
さようなら、アデイダスの上げ底靴
あしたから、裸足で走ります
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