2020年3月10日火曜日

高村薫の5冊 その3 レディージョーカー

6段目3番
霧笛が俺を呼んでいる


英語ができなくても漢字があればと中国へ行ったのは30年前だ
今もあるのかどうか? 
鑑真号で行った
あの頃は1週間ごとに大阪から出たり神戸から出たりしていた

食堂の「めし」がうまかった
また船賃に比較すると、ビールが安かった気がする
だから食事の度に必ずつけた
カラオケもあったのではないか
「酒と泪と男と女」
を、歌ったおぼろな記憶がある
 
上海のあと西安に寄りウルムチ、カシュガルと回った
ウルムチで<自転車世界一周>をしようとしている、二十歳くらいの男からカメラを預かった
帰途神戸に立ち寄るのを知り、壊れてしまったカメラを「母親に手渡して欲しい」と頼んできたのだ
男が<お礼として支払う>と言ってきた額が、あまりにも慎ましやかだったので、カメラの方だけを受け取った

男と顔見知りになったホテルのレストランの「めし」がこれまたうまかった
夕食に300円程度の定食を注文すると、ご飯とスープの他に「おかず」が4品並ぶのだ
ビールを欠かすわけにはいかなかった

帰りの鑑真号は神戸に入る
端からその日はサウナに1泊と決めていた
男の家は市内にあるという
俺は頻繁にサウナを利用する30男だった
目覚めて<サウナ>糞しに<サウナ>酔い覚ましに<サウナ>
そんな感じだ
 
アル中オヤジ蔦監督」率いる池田高校が桑田・清原」のPL学園にコテンパンにやられたのも、池袋は<フィンランド>という名のサウナで見た
サウナから(自転車男)の家に電話を入れると、母親はすぐにやって来た
「食事をごちそうしたい ちょっと出られませんか?」と、言う
出ればもう一度入らなければならないし、ご飯はさっき食べてしまった
サウナ支給のアロハシャツに短パンのいでたちで断ると
「その分は払わせてもらうし、せめてお茶だけでも」

きっと息子の話を聞きたいのだろうが、彼のことは、ほとんど知らない
「下痢を恐れるあまりビールを飲まない奴」
そんな話をしたところで、母親は喜ばないだろう
「元気そうにしてましたよ」とカメラを渡し、お帰り願った

その日、サウナではカラオケ大会があった
景品もつくので
美川憲一の真似をするコロッケの真似で「柳ヶ瀬ブルース」を歌います」
と講釈を述べ立て勝負にでたが、賞品にありつけないどころか誰もこっちを見なかった
降カラオケでの十八番は「霧笛が俺を呼んでいる」に取って代わる

バブルに突入したのはその頃では、なかったのか?
バブルを知らずに年老い、知ったあとも<無関係>と認識してきた
こんな俺にもささやかな<バブル期>があったのかもしれない
もう15年以上<サウナ>には足を踏み入れていない



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