2019年9月29日日曜日

溝口健二の5本 その4 西鶴一代女

1段目14番
ナワトビ パート2

ナワトビは不死身だ
かれこれ二十五年、同じナワトビを使っている
これを買った時あまりに具合がいいので、おまけにもうひとつ
買っておいた
ところが四半世紀経っても壊れてくれない
これじゃあ二本目が無駄になってしまうと、スペアナワトビに切り替えた途端
り替えた途端、所帯道具を詰め込んだスーツケースとともに、紛失してしまっ失してしまった
ないがしろにした罰が当たったのだ

完璧すぎてこれを作った会社は採算がとれず潰れてしまった
いくら丈夫で長持ちでも、地面と床に直接ぶつかる部分は磨り
減る
針と糸でもって修繕する
一週間に一回、年に五十二回 
これまでに千三百回以上、縄に糸を通してきた
縄に針を当てると不思議と心落ち着く 
どんなに頑丈でも、取っ手のところは割れたり欠けたりする
そのときはテープを貼ったり、輪ゴムで巻いたりして補強する

1段目1番の(ナワトビ)という詩は母のことを書いたのだった
少年だったころの一時期、カメラに凝ったことがある
姉の寝顔や繕い物をする母の後姿を撮ったりした
「気持ちの悪いことをするな」と姉には怒られたが
母は
「よく撮れてるけどなんだか、かあちゃんじゃないみたいだ」
と言った
その写真は五十の時に燃してしまった
けれど今でも、その時着ていた服の柄とか、辺の有り様は、克
明に焼き付けることができる
そんな母の後姿を透かし見ながら、きょうも縄に針をさす
こころが
しずかに
ほどけてゆ




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