2021年12月29日水曜日

森田芳光の5本 その3 海猫

 30段目9番

口角


を、辞書で引くと口の端とある

最近本を読むと、流行なのかファッションなのか口角が頻繁に登場する

昔も今も、ぼく自身、口角なんて言葉、使ったことはない 

目にするのも稀だった


図書館が民間に委託される、ずっと前 

ぼくが30代に突入した頃 

日光市がまだ旧日光市で、真ちゃんが役所の職人職員としてバリバリ鳴らしていた当座 

秘密裏にとある司書の住所を調べてもらいラブレターを書いたことがあった

ある日、図書館の建屋を出ると、とある司書が追いかけてきて

「あの手紙の宛先は、わたしで良かったのでしょうか?」と聞いた

季節は冬で、浮浪者のホームレスの好みそうなジャンパーを纏い、なかなかに似合ってる、と認識していたぼくは

「そうです あなたにです」と答えた


2日後、返事が届いた

まず「わたしは、今、婚約中の身の上」なのだ、との断りがあり、図書館を訪れる人の立ち居振る舞いを見て、その人がどんな本を借りるのか、想像するのは楽しい 当たるともっと楽しい 近頃よく当たるようになった とあった

謂わば「図書館は、ぼくの書斎」

妙に落ち着いてしまい、ついオナラがこぼれてしまう 

時には音まで響かせてしまう始末だ


かように図書館の司書に、ラブレターを送ったりするような男であるから小説読みとのプライドがある

1冊の本を読んだ

ある作家が、前半に口角と連発しすぎたせいか、後半は口の端と書き換え、これでもかと、口角を上げ下げしていた

師走である

口角泡を飛ばすのは大人気ないので、このくらいにしておく





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