2021年7月8日木曜日

村田喜代子の5冊 その2 雲南の妻

 25段目5番

1234


快晴に誘われ、我が家から歩いて2分30秒の大谷川河川敷、 ぼくが見つけたテーブル石に腰を下ろし、心地よくワンカップ焼酎を飲っていた
何気なく前屈みになって気づいたのだ
短パンの、お尻と急所の間の十文字に繋ぎ合わせてある部分が、繕われている
その下手さ加減は、ぼくが縫い合わせたことを証明している
それがいつ、どういう状況でだったのか、てんで思い出せない
もうこの年齢になると前を向いても夢も希望もないから、過去をいと惜しみアレこれと、感慨に耽ることにしている
短パンの、綻びに思いを馳せていたはずなのに突如それとは向き合わぬひとつの記憶が、よみがえってきた

タイはチェンマイ、シリマンカラジャン通りに、名前は思い出せないのだが、よく通った店があった
店頭になぜかお相撲さんの人形が鎮座している
そこの従業員にトムボーイらしきのがいて、そいつはパンクよろしく髪の毛をおったてている
激しく酔っていた それは毎度のことだ
「触ってもいいか?」と右手を彼女の頭上に掲げ聞いた
「ダメ」と言うので、触れる機会には恵まれなかったが、電話番号は聞き出せた

下4桁が1234なので(かまされたかな)と思わないでもなかった
ダメもとでしてみたら繋がった
それにしても女に電話するって、どうしてこんなに緊張するのだろう
還暦を過ぎてもまったく慣れることができない
「一緒にご飯を食べよう」
と誘ったら「19時までに私の方から連絡する」
ということになった

しかし19時過ぎても、次の日の19時になっても
携帯が震えることはなかった
それ以来、遠回りをして店の前は通らないようにした
そのうちに店は潰れ、回り道の必要は、なくなった




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