2021年3月17日水曜日

角田光代の5冊 その1 ツリーハウス

 15段目7番

夢を夢見る


10年前の自分も10年後の自分も、今の自分とは別物だ
人間はその刹那に、そこにあることでしか、生きていることを、証明できない
実感もできない

いくら長生きしようが10年前の、いや、ついさっきの空気でさえ、胸いっぱいに吸い込むことは不可能だ
人間の人格や性格、性質や体質は
簡単に変わるものではない
少なくとも片意地で気の小さいぼくの性質は、幼稚園の時から変わっていない

宝くじを買うと眠れなくなる
当たったらどうしようかと考えてしまう
まず「誰にいくらやろうか?」
と、分配方法で頭を悩ます
あっという間に3時間ぐらい、経過してしまう

次に考えるのがどうやって、あるいはどう言って、その時にしている仕事をやめるかということだ
正直に「宝くじに当たったので、働かなくてもよくなった」 
では、あんまりだろう

やむにやまれず、数百ヶ所の仕事場をやめてきた
いろんな言い抜けを考えた
茅野の修学旅行相手のホテルをやめる時には
「円形脱毛症になっちゃったんで」
という手を使った
(癖になるのだ)若い頃は何度もハゲた
今振り返れば冷や汗ものだ
「なら、見せてみろ」
と切り返されたら、いったいどうなっていたか?

極めつけは 「耳鳴りがひどいので」だ
八丈島から目と鼻の先の、青ヶ島で護岸工事に従事していた
といっても働いたのは1日だけ
足場の上を移動するのが怖くて仕方なかった
この時、初めてこの手を使った
耳鳴りは実際にしてもしなくても、本人にしか分からない
医者だって本人がするというものを、覆すことはできない
拍子抜けするほどスムーズにやめられた
案の定海が荒れ、フェリーは出ず、1週間足止めをくった

そういえば宝くじに当たったら、の話だった
例えば、周りのみんなと和気あいあいとやっている職場を
「耳鳴りがひどいので」 の一言でやめてしまっていいものだろうか?
しかし、虚心に「ロト6で1億円当たりました」と申告すれば、噂はあっという間に広がり面倒なことになる
いっそのこともうひと踏ん張りして、契約いっぱい働いてしまおうか
 
と(そんなあんな)を考えているうちに、夜はきれいさっぱり明けてるって寸法だ
(宝くじに当たったら)って考えちゃうと眠れない
眠れないと夢を見ることができない
うーん 
どうしたらいいのか!





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