2020年12月20日日曜日

クリントイーストウッドの5本 その5 荒野の用心棒夕陽のガンマン続夕陽のガンマン

 13段目9番

信州菅平高原桑田館


は、冬はスキー客、夏はラグビー合宿の学生を相手に商いする旅館だ
十九歳の夏と冬、二十歳の夏、そして二十二歳の夏と、四度草鞋を脱いだ

いまでこそ労働は罪悪とうそぶいているが、当時は生きるために働くのは仕方のないこと、と割り切っていた
根が真面目でおまけに小心者だから、さぼるということができず、陰日なたなく、それこそ一心不乱に働いてしまう
そこをおかみさんが気に入ってくれたわけだ

十九歳の夏は病気持ちでもあった
「尖圭コンジローマ」という性病である
亀頭の付け根部分に一ミリ大の疣ができ、倍々ゲームで増殖し、果ては数の子状になってしまう

旅館の昼休みは長い
毎日のように散策に出かけた
高原だけあって散策に適した鬱蒼たる林や森はいくらでもある
時々、大木の陰に隠れ小便するような振りをして、マスをかいた
ぼくより一週間遅れで来た、二人連れの片割れ、Mさんがおかずだった

終わると数の子から出血する
けれども、かかずにはおれなかった

お互いに東京に戻った秋口、Mさんから封書が届いた
中にロードショー館の招待券が入っていた
早速返信をしたためた
「ぼくの映画好きを覚えていてくれたんですね。真弓さんに期限切れの招待券を送らせてしまったその腹いせに、いやお詫びに是非一度昼食を、もしくは夕食を奢らせてください」
考え抜いた文章だったのに、Mはウンともスーとも言ってこなかった

その代わりといっては何だが昭和女子医大病院に出向いた
尖圭コンジローマが限界に達していた
「ここまで大きくしたのを見るのは初めてだ」と担当医師は興奮を隠さず、ぼくの承諾を取って写真を撮った
本来は患部を電気ごてで焼き切るのだが、それじゃ追いつかないので局所麻酔のあとメスで切り取った
「その痛いこと、と言ったら」

二十歳の夏、某俳優養成所で同期だった大将がぼくの後釜として働きにきた
二人がダブった期間は一週間だった
おかみさんから「大森君の物言いが直裁すぎて怖がってる人がいるソレとなくソレしてくれないか」と頼まれた
ぼくはどうしたのだろう? その辺がイマイチはっきりしない

お互いに東京に戻った秋口、大将から連絡が入った
バイトで一緒だったSさんを好きになってしまった
「打ち明けたいのでちょっと付き合え」と
Sさんなら去年の夏も働いていた 
そして恋人もいるはずである
別れたとは聞いていない

それに大将の持っている情報が「Sさんは経堂駅を利用している」その一点のみであった
改札の外で網を張った 
奇跡は起こった
電車を降り、改札へ向かう人の群れに、Sさんを発見したのだ
ただ奇跡はそこまでで、あえなく拒否された

二十二歳の夏、旅館の昼休みは長い
毎日のように散策に出かけた
二キロ程離れたスーパーというか万屋で一リットル入り缶ビールを買う
高原だけあって飲むのに適した草叢や木陰はいくらでもある
一缶のビールが時には二缶に稀に三缶になった

初めて四缶目に口をつけた日の夕方
働くぼくの姿、話しぶりがおかしい、ということになった
陰日なたなく働く、好青年から若年アル中男へ、と一気に転落した
その日が桑田館での最後の労働となった





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