宝くじは買わない
が「今日のコンサートの一番星だ とてつもなくシャイでシャレている」
と、高校一年の日記帳にある
この前死んだ清志郎の曲だ
「宝くじに当たったら結婚しよう」
五十の時、ものごころがついてから初めてのプロポーズをタイ人女性にした
「当たらなくても、いい」
相手は答えた
日本に帰り半年働いて戻ってみると、うやむやになっており、まもなく会うことも叶わなくなった
「実際に当たっていたら、こんなふうにはならなかった」
と、何度独りごちたことか
彼女は手の指のように長く自在な足の指を持っており、ぼくをそそった
「このことだけは母親に感謝している 去年死んでしまったが、時々指先が疼いて仕方がなくなる 間違いなく母の魂の仕業だ」
宙に掲げピアノを弾くみたいに動かしたのだ
「死んだら無 あの世はない お化けはいないし、魂もない」
それこそ、ものごころがついた瞬間からコチコチの無神論者だったぼくだが、それもありかも知れない
ぼくをぼくたらしめてるのは
「我思う、ゆえに我あり」
の我だけでは、なさそうな気もする
夢は脳と魂の協同作業なのかも知れない
虫の知らせは魂のしゃっくり、逢魔が時は魂の居眠り時
キレるのは脳と魂の連係ミス
ぼくは夢想する
のたれ死ぬ前に買った宝くじが「当たっていた」と
離脱した魂はきっと宝くじに宿るに違いない
運良く死体は発見されどこかに収容されたとしよう
宝くじが、ただの紙きれなら係員によって一時保管されるだろう
魂入り宝くじはその手をすり抜ける
風に吹かれ、雨に打たれ、雪に埋もり、川を下り、凪にたたずみ、雲に乗って、この世をさすらうのだ
土の匂いにむせび、草いきれに欲情し、月夜の冷たさに張り詰め、母の温もりに吐息し、パクチーの香りに鼻腔をくすぐられるだろう
焼かれて灰になり、消滅したはずなのに
微かに密かに密やかに、そいつを咀嚼する
そして引き換え有効期間が切れる日
魂の抜け去った宝くじを側らに残し
ボクハホントウニキエテナクナル
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