2020年3月3日火曜日

高村薫の5冊 その1 晴子情話、新リア王、太陽を曳く馬

6段目1番
美玲大浴室 


は、今はもうない
32年前、店構えを見た瞬間
「ああ、その手の店なんだ」
とピンときた
最初の海外旅行はインドで、バンコク経由だった

バイト先で知り合ったコーロー・ミサトさん夫妻プラスの幼い兄弟で構成される伊藤一家に、紛れ込んでの旅だった
チケットの手配からすべてコーローさんにおんぶにだっこだった
バンコクには4日いたはずだ 何日目だったろう?
初めて1人だけでバンコクの街の散策に出かけた
その時、発見したのが美玲大浴室だった

早速ホテルへ取って返し、パスポートと旅行者用小切手をコーローさんに預け、美玲大浴室の扉を押した
いきなりバカでかいフロアーに踏み込む形になった
とまどいながらも100メートルくらい向こうに所謂金魚鉢を認めた
近視なので「まずは近づかねば」とテーブル席を縫うようにして目指す
と、あっちから男が1人近寄ってきて何事か喋り散らす
どうやら「どっちか」を選べと言ってるらしい
確かに男は両肩に女を従えている

ぼくは金魚鉢で侍る女たちを一目見ることもなしに、右側の女を指名する破目になってしまった
名前は覚えていない
顔も忘れた
「コトニオヨブ」と吐く息なのか吸う息なのか、彼女の口から歯笛がこぼれた
出掛けにコーローさんが持たせてくれたコンドームは使わなかった

エイズが騒がれだすのは、この1年あとだ
部屋は彼女専用のようで戸棚の小引き出しから、大量の写真を取り出し1枚1枚、解説を加えながら見せるのだった
千葉の佐倉で1年近く働いたらしい
写真観賞合間の2度の行為にイタク充足した

美玲大浴室はクロントゥーイ方面へルンピニスタジアムを通り越し、高速道路を潜り抜ける少し手前ラーマ4世道路の右側にあった
先に述べたようにはない




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